絵を描くということ

ITmediaニュース
『「ニコニコ動画で、出口が見付かった」 絵描き兼開発者・24歳』の感想。

ニコニコ動画で「演奏してみた」動画を見ていて気になる事の一つが、うp主の演奏技量やそのレベルについての批判的なコメントだった。
確かに技術的には拙いところがあるものも少なくはないけど、そこはそれ、「アマチュア」の話なのだし、誰もが誰も音楽大学の入試対策や職業ミュージシャンになるのを前提での楽器練習をしている訳ではなく、趣味で音楽を嗜む人は少なくないと思うし、そういったものを見せて(聞かせて)貰えるのがニコニコ動画の自演映像の楽しみだと思うのだ。
プロであれば完璧な演奏を要求されるかもしれないけど、それを素人に要求してもしょうがないじゃないかと。
プロにはない味とか、曲に対する愛情とか、一般に広く流通してる音楽演奏にはないものが見せてもらえるのがこういった「演奏してみた」動画の醍醐味だと思う。そういった「きらりと光る何か」が一つでもあればいいんじゃないかと思うし、そういう動画は少なくない(まれに、「本当に練習をろくにしてなくて失敗してばかり」のピアノ演奏動画とかも、ないわけではない。さすがにそういう場合はネットで公開するならもうちょっと練習しろよと思う)。
実際、お気に入りの楽曲の演奏動画は何度も見ている。


批判的なコメントは「下手」から始まって技量のこととか練習不足のこととか、あまり多くはないバリエーションでその演奏を楽しんでいる人にとってはどーでもいいような事を書くのが殆ど。お前は音大の入試係かオーディションの選考メンバー気取りか、お呼びじゃねーんだよと思っていたものだった。

が。

このニュースでくだんの「ゆき」さんの作品を見て動画に批判的コメントを寄せてる人の気持ちがようやくちょっとだけ分かった。
ヘタだわ、この人。絵が。本人も言ってるけど、デッサン力がない。

今までは音楽関連の話であれば全くの門外漢なので、そういう気持ちにはならなかったのだ。
絵に関することは多少なりと自分の縄張りのうちなので、その中でそういう人がいると、やっぱり一言言ってしまいたくような気もしてくるのである。

もっとも、やっぱりそんな批判的なコメは思うだけでつけはしないけどね。勿論。


ゆきさんのすごいところは、デッサン力のない人が独学・我流で他人と交流を持たないまま絵を書き続けていった時に生じがちな「気持ちの悪い方面で絵が固まっていく」ってことがなく、絵自体の雰囲気とか画風・芸風はほんとにステキなこと。ただデッサン力がないだけなんですよ。元々のセンスがいい人なのだと思う。
それこそ上の言い方でいうと「きらりと光る何か」をいくつも持っている作品なので、技量・基礎的な拙さを突っ込む批判的コメントなんてほんとに野暮だと思う。だから、言わない。
でも王様の耳はロバの耳ー!と叫びたくなったので書いてみた。


趣味で書いてる人がデッサン力がなくても問題はないし、それに対して仕事を発注する人がいたとしても不思議なわけじゃない。
絵が上手くてデッサン力があることと、魅力的でお金を払いたくなるような絵を描く事は別の問題なのだ。

プロ/アマを問わず、音楽/絵を問わず「技量、基礎力、テクニックなどがある」ということと「魅せる」ってことは別だったりする。
ただ、本当に好きでやってると技量はあとからついてきたりもするというのはあるけど。
上手くても魅力的ではない作品の人もいるし、テクニックで魅せる人もいるし、いわゆる「ヘタウマ」という芸風の人もいる。
職業でやってる人は上手い人が多いけど、それも「上手い」方面は良し悪しの判断をつけやすいから仕事でやっていく場合には基礎力があった方が逆にやりやすいというだけだ。成長のあるなしや他人との比較もある程度はつけやすい。「ヘタウマ」系の『「下手」だけど「いい」』ってのをただの下手と判断するのには本当にセンスが必要だから難しい。上手い人が一見下手な作品を作るのは出来るけど、デッサン力のない絵の人がデッサン力があるように見せかけて書くのは出来ないからね(出来てたらデッサン力があるってことになる)。


色々と書き連ねてきましたが……通常のメディアでは露出されることのない素人の荒削りな芸風をそのまま楽しめるのがニコニコの魅力なので、「上手い」とか「下手」とかは関係ない、そこにあるのは「いい」か「よくない」か、あるいは「ステキ」か「ステキじゃない」か、または「好み」か「好みじゃない」かだなと思う訳です。
「上手/下手」の場合は順位が付けられるけど、「いい」か「よくない」は純粋に個々人の好みの問題になってくるから順位はつけられない。上手いか下手かで順位付けするような楽しみ方じゃなくて、ステキかステキじゃないかで純粋に楽しみたいなあと思うこのごろ。


そういえば昔聞いたうわさ話で(つまり、ソースなし)、フジコ・ヘミングはちょっと演奏が下手だけど味があるところが魅力だったのに、人気が出て演奏会の機会が増えてしまったら、演奏会=演奏の練習にもなってしまったから、しばらくしたら演奏が上達してしまい、一部の人ががっかりした、とかなんとか。
マジか(笑)。